映画『翔んで埼玉』感想。キャストにこだわった、全力の茶番劇。

映画「翔んで埼玉」を見てきました。

2月22日に公開されると、予想以上の動員数を叩き出し、いきなり週末興行ランキングの1位を獲得。


同日に公開された、ジェイムズ・キャメロン監督のアクション大作「アリータ バトル・エンジェル」を抑えてトップになるとは、埼玉県人も予想しなかったことでしょう。

かなり期待されていたことがランキングで明らかになりましたが、はたして内容はどうだったのか。

今回の記事では、話題作「翔んで埼玉」を
・謝罪
・美術
・キャスト
・構成
・茶番劇

という点にスポットを当てて語っていきます。

ネタバレ無しの感想と解説です。

ひたすらゴメンなさいと謝る宣伝

まずはこちらのムビチケをご覧ください。
翔んで埼玉ムビチケ
いきなりメインキャストの二人が頭を下げ、こう書いてあります。

ご購入者の皆様
この度は、お買い上げ頂き、誠にありがとうございます。
~埼玉の皆様~
映画化してゴメンなさい。

映画の公開前からいきなり謝罪です。

ティザービジュアルでは……

ムビチケと同じデザインを使ったティザービジュアルでは、こんなお断りが書かれています。

この物語はフィクションであり、
実在の人名団体、とくに地名とはまったく関係ありません。
実際の埼玉県はとても住みやすいところです。
どうか寛大な心で、劇場にお越しいただけると幸いです。

寛大な心で見るようにお願いされています。

「埼玉いじり」の映画

予告編はこちらです。

詳しいあらすじなどは公式サイトなどを確認していただくとして……。

映画の大部分が「埼玉いじり」のコメディです。

作品内の世界では、埼玉県民は通行手形がないと東京に入れません。
埼玉は、ひどい差別を受けているのです。

予告編などで頻繁に使われるセリフを聞くだけでも、なかなか強烈です。

インパクトのある埼玉ディスなセリフ

病気になった埼玉県民に対して……。
「埼玉県人にはそこらへんの草でも食わせておけ!」

埼玉の話をした東京都民は……
「ああいやだ! 埼玉なんて言ってるだけで口が埼玉になるわ!」

口が埼玉って何?……という突っ込みは無粋ですね。
とことん埼玉を差別しており、それを笑いにしています。

事前に謝ることの意味

広告や予告編でひたすら謝り続けるのは、不快に感じる人へのフォローという意味ももちろんありますが、それだけではありません。

謝りつつも予防線を張る

先に謝り続けることで、「冗談のわかる人だけ来てくださいね」という宣言にもなっているわけです。

もしクレームめいた意見があったとしても、公開前からそのあたり説明と謝罪してましたので、という予防線にもなります。

プロモーションで埼玉県知事を訪問してお墨付きを得ています。


こういった宣伝戦略は大成功だったと思います。
ランキング1位は本当にすごいことです。

徹底した美術による説得力

見る際にぜひ注目してもらいたいのが、美術関係です。

序盤の舞台となる、白鵬堂学院

そこは東京都民だけが通える学校であり、「都会指数」によって厳しくクラス分けされています。

青山・赤坂に住む者はAクラス、
田無・八王子に住む者はEクラスなど……。

クラスによって制服も違い、ヒエラルキーのトップにあたるAクラスの生徒は宝塚歌劇のように絢爛豪華。

白鵬堂学院の美術に注目

そんな白鵬堂学院の内外装やインテリアは、これでもか!とばかりに豪華な作りです。

「都会指数格付けチェック」のシーンで使われる講堂なども、細かなところまでしっかり作り込まれています。
美術スタッフは相当気合いを入れたのではないでしょうか。

メインキャラの衣装も見どころ

奇抜なデザインですが、現実にありそうな質感です。
壇ノ浦百美の制服はとても凛々しく、麻美麗の服も上品ながらどこかエロティック。


魔夜峰央ワールドのファッションを現実のものにしています。

ファンタジーに入り込ませる技術

言ってしまえば「翔んで埼玉」はセレブなファンタジー世界の物語。
こういった舞台美術が安っぽかったり見すぼらしかったりすると、観客は冷めてしまいます。

本作では、ファンタジー世界の美術をおろそかにせず、徹底的に作りこんでいるので、世界に説得力が生まれます。観客はすんなりと作品世界に入り込めるのです。

出身地にこだわったキャスト

埼玉を描いた映画ですが、物語は隣県の千葉や茨城、群馬を巻き込んで展開していきます。

埼玉県民を埼玉出身者が演じる埼玉愛

すべてではないですが、埼玉県民を演じるキャストには、実際の埼玉出身者が起用されています。

埼玉県民を演じる埼玉出身者

島崎遥香(埼玉県出身)
ブラザー・トム(育ちは埼玉県熊谷市)
成田凌(埼玉県出身)
益若つばさ(埼玉県越谷市出身)

ブラザー・トムは、熊谷市に住んでいる埼玉県民を演じています。

ちなみに成田凌は宣伝ポスターに大きく描かれていますが、出番はちょっとだけです。

千葉県民も千葉出身者が演じている

ブラザー・トムの妻は千葉県出身の設定で、千葉を「チバラギ」と言われるとブチ切れる女性ですが、演じるのは千葉県出身の麻生久美子なのです。

作品の外の遊びの部分だけど……

演者のプロフィールなので、作品の内容そのものとは関係ないことです。
ただ、埼玉出身者が埼玉県民を演じているとわかると、彼らが言うセリフの聞こえ方が変わります。
埼玉県民本人たちが言うなら……と思えるのです。

ナイスアイデアの2部構成

映画では原作マンガに全くなかった要素を取り入れ、2部構成となっています。

原作通りの「伝説パート」

埼玉県が迫害された世界で、埼玉県民の戦いを描くのが「伝説パート」。
原作マンガの内容を元にしています。

追加された「現代パート」

現代の埼玉県に住む、親子の物語。彼らは車で都内を目指します。
これは原作に無い、映画オリジナルの要素です。

2つのパートをつなぐ「NACK5」

周波数はFM79.5。
埼玉県民にはおなじみの、ローカルFM「NACK5」(ナックファイブ)。
原作パートの親子は、カーラジオでNACK5を聞いており、そこから流れてくる「都市伝説」が伝説パートの内容で、両親はそれに聞き入ってしまう……という構成になっています。

伝説パートが一区切りつくと現代へ

伝説パートがある程度進むと、現代パートに切り替わります。
埼玉県人の物語に一喜一憂する両親(ブラザートム、麻生久美子)と、冷めた娘(島崎遥香)が描かれ、また伝説パートへ……という展開です。

現代パートが伝説パートを引き立てる

映画を身始めたときに、現代パートは必要なのかな……?と疑問でしたが、すぐに「これは上手いアレンジだ」と感心しました。

伝説パートは前述の通り、デタラメなファンタジーです。
ずーっとファンタジーを見せられていると、どこかでクドく感じたり、冷めてしまう可能性があります。

そこで、ときどき現代パートに引き戻し、あくまであれは伝説ですよ、ファンタジーですよ、と確認が入ることで、逆に冷めないのです。

ほどほどに突っ込む気持ち良さ

ファンタジーはどうしても、「そんなのねーよw」という出来事の連続です。
お笑いで言えば、全員がずっとボケているようなもの。

そこに、島崎遥香演じる娘が、伝説パートの内容に突っ込むので、観客も少し気持ちよくなれる効果もあります。

2部構成のおかげで飽きずに見られる

伝説パートがつまらないわけではありませんが、この構成のおかげで、最後まで飽きずに見られます。
このアイデアは本当に素晴らしい。

茶番劇に大切な「全力」

映画のキャッチコピーには
「壮大な茶番劇」
という表現が使われています。

茶番とは「ばかばかしい、くだらない」という意味の言葉。

確かに、とてもばかばかしい映画です。

中盤の見せ場である、埼玉vs千葉の合戦シーンは本当にくだらない。
くだらないのですが、笑ってしまいます。

良質のエンターテイメント作品

確かに茶番劇なのですが、あらゆることに全力なのが「翔んで埼玉」の魅力を生んでいます。

二階堂ふみ、GACKT、伊勢谷友介の好演は見ていて何の違和感もなく、ファンタジー世界のキャラを演じきっていました。

大量のエキストラとCGを組み合わせた映像にも迫力があり、映画ならではのスケールです。

前述の舞台美術もそうですし、架空の街の姿にも見応えがあります。
池袋の街並みや、川口の関所、群馬のジャングルは必見です。

全力の茶番劇だからエンタメになる

ばかばかしいことでも、熱をこめて全力で振り切れば、エンタメとして楽しめる作品になる。
そんなコンセプトを感じる作品です。

武内英樹監督もインタビューでこう述べています。

――武内監督は、キャストのみなさんにはどんな演技指導をされたのですか?

武内 こういう世界があると信じて……信じづらいかもしれませんが(笑)、とにかくまじめにやってください、一切ふざけなくていいです、と言いました。「NHKの大河ドラマのつもりで」と。お客さんに「こんな話をまじめにやって、役者ってすごいな」と思ってほしくて。虚構を描く時は、熱量で押し切らないと。
熱量があれば、最初は「ありえないだろ」と思って観ていたお客さんも、気がつけば感情移入している状態になる。
引用:https://ddnavi.com/interview/516187/a/

とんでもなくデタラメな世界の映画を作るために何をすべきか。

武内監督は信念を持って、まじめに演じるようキャストに指示をしました。

茶番劇で楽しませるために、役者やスタッフは、あらゆることに真剣に取り組んでいたのです。

狙い通り、「翔んで埼玉」の世界には説得力があります。

作品世界に冷めることなく、観客は安心して笑えるのです!

壮大な茶番劇をぜひ劇場で!

関東地域の差別ネタを知らないと楽しめないセリフもあるとは思います。
ですが、それを抜きにしても十分楽しめる映画です。

くだらない内容に全力で熱を込めたエンタメ作品。
熱があるうちにぜひ劇場でご覧ください!

ちなみに余談

新宿バルト9で見たのですが、かなり笑いが起きていました。
前に座っていた男性は埼玉県民だったようで、ヘッドバンキングしてるくらいにウケていました。
地味に、千葉・群馬・茨城もいじられてますので、関東民は寛大な心で見に行きましょう!

おまけ

トイレの貼り紙まで!

公式サイトはこちら

映画『翔んで埼玉』公式サイト