映画「タワーリング・インフェルノ」から学ぶ、キャラの作り方【シナリオ分析】
パニック映画の名作「タワーリング・インフェルノ」。
サンフランシスコに建設された138階建の超高層ビル。135階で開かれた竣工記念パーティーの最中に、ビルの中層で火災が発生し、パーティ客の300人が高層階に取り残される……。
というのが冒頭の展開です。
この映画は165分の長編で、様々な人間ドラマを見せるため多くのキャラが登場します。
その中から、老紳士クレイボーンのキャラ立てを解説します。
演じるのは往年のミュージカルスター、フレッド・アステアです。
クレイボーンの登場シーン
序盤は主人公の設計士や施工会社の面々を中心にしつつ、パーティーに参加する人物も紹介されていきます。
その中の一人がクレイボーンです。
パーティーは夕方からですが、彼はまだ明るい時間に、タクシーに乗ってビルの前にやってきます。
クレイボーンは整ったスーツに身を包み、裕福な紳士に見える容姿。
タクシーの運転手に料金を払うように急かされると、温和な笑顔でこう答えます。
「しまったな、50ドル札しかない」
50ドル札は高額紙幣で、米国の小売店やタクシーでは使えないのが慣例です。
「お釣りはあるかな?」
運転手はあるわけない、と渋い顔で答えます。
困ったな、と自分の服を探るクレイボーン。
「ああ、小銭があった」
と、ポケットから小銭を取り出します。
そして、運転手の手のひらに1枚ずつ小銭を置いていきます。
「10セント、20セント、30セント……」
運転手はしかめっつらのまま。
「……85セント、ああピッタリだ。よかった」
クレイボーンは微笑み、最後にこう添えます。
「チップはまた今度に」
チップを貰い損ね、呆れた顔の運転手。
クレイボーンはビルに向かって歩き出します。
「タクシーの支払い」だけで伝えられるキャラの性格
結果的に、クレイボーンは何をしたのか。
タクシーの運賃を小銭で支払い、チップを払わなかった、ということになります。
言葉通り受け取れば、50ドル札と、小銭を85セントだけ持っていたことになりますが……よく考えると不自然な話です。
いくらかの怪しさを残しつつ、クレイボーンは超高層ビルを見上げます。
これから何か楽しいことが待っているぞ、と期待のこもる笑顔を見せて、クレイボーンのファースト・シーンは終わります。
怪しさの正体が判明するセカンド・シーン
クレイボーンが次に登場するのは、ビル内の部屋でタキシードに着替えるシーンです。
パーティーのための高価な正装ですが、タキシードには「貸衣装」のラベルが……。
ここで観客は怪しさの正体に気づけるようになっています。
タキシードを借りてくる男です。
50ドル札など持ち歩くわけがありません。
つまり、さきほどのタクシーでの会話は、見栄か、ハッタリか。
何にせよウソだったのです。
チップも払える余裕がなかったのでしょう。
しかし彼は、憎らしいほどの温かい笑顔で、自分が金持ちであると偽り続けました。
相当のウソつきです。
借り物のタキシードに身を包んだクレイボーンは、トランクから電力会社の株券を取り出し、意気揚々と懐に入れます。
となると、この株券は……?
クレイボーンの正体と、彼の顛末は、実際に映画でご覧ください。
何気ないやりとりでもキャラ立てできる
シナリオとしては、クレイボーンが普通にタクシー運賃を支払っても不自然さはありません。
しかし、本作ではたくさんのキャラが登場します。
主人公格ではないクレイボーンのキャラを見せるためには、映るシーンすべてで「クレイボーンらしいイベント」を起こしたほうが効率が良いのです。
そして大切なのはファーストシーンです。
タクシーで到着する、運賃を支払う、という流れのなかで、クレイボーンの胡散臭さや、屈託のない笑顔などがきちんと表現されています。
キャラ立て用のエピソードが長くなりすぎると本筋から離れすぎてノイズになるので、ほどよいボリュームも大切です。