「アスミカケル」から学ぶ、キャラの作り方【明日見二兎 編】

2023年6月、週刊少年ジャンプで連載開始した「アスミカケル」

冴えない生活を送っていた高校生が、総合格闘技(MMA)と出会い、成長していく物語です。

作者は、同じくジャンプで「火ノ丸相撲」(全28巻)を連載していた川田先生。
連載当初から「漫画力が高い」「安定感がすごい」といった評価をよく目にします。

長期連載を経験している実力派の新作、
「アスミカケル」の第1話から、
主人公「明日見二兎」のキャラの立て方を学びます。

第1話は試し読みできます

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さきに第1話を読んでからこの記事を読みたい方は、
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まずは二兎の家族関係から

第1話はモノローグと見開きの扉絵から始まります。
わかりやすくするため、本編が始まるページをP.1として進めます。

P.1〜3
ファーストシーンは主人公の自宅。
朝の時間帯の様子が描かれます。
痴呆症の祖父の介護に追われる長女や、登校の準備をする妹や弟。
P.3でやっと主人公が登場します。
祖父から「一狼かぁ 大きくなって……」と言われ、
「アハハ! 惜しい!」「一狼の弟の二兎!」
と二兎が答えます。

ここでは
・間違われても明るく返せる性格
という情報を出しつつ、自然なかたちで主人公に自己紹介させています。

主人公の登場が少し遅く、先に家族関係を見せています。
一般的な週刊誌のマンガの第一話としては少し遅い立ち上げです。
第1話にかなりのページ数があることと、
じっくりとプロローグを描きたいという意志を感じます。

二兎の学生生活

P.4
モノローグを入れつつ、
・二兎はメガネ女子が好み
という情報を出しています。
わかりやすくするために、サブキャラに
「二兎はホントメガネ好きなー」
と言わせているのが上手い。

P.5
不良たちにからかわれ、驚く二兎。
「マジビビリウケる」と笑われてしまいます。
妙に高く飛び上がっているのは伏線。

P.6~7
二兎の友人、渕田優也の登場。
優也が格闘技を習おうとしており、それを不良にからかわれることで、物語に格闘技の要素が入ってきます。
不良に煽られた優也は負けじと張り合い、喧嘩寸前。

P.8~9
二兎が機転を利かせて、道化になることで不良たちは去っていきます。
ここで優也が、主人公に「最初の誘い」を持ちかけます。
二兎に「一緒に格闘技を習わねぇか?」と言うのです。
格闘技の動画を見せられた二兎は、ほぼ目を背けつつ、
「ひぇ~ 痛ぇ~」
と嫌がります。
・痛いのは嫌い
という二兎の性格が描かれます。
格闘技漫画なのに「痛いのが嫌」というギャップです。
優也は強く勧めますが、あまり乗り気にならない二兎。
しかし優也は
「つーか頼む!」
「一人で格闘技ジム行くの怖いんだよぉ」
と、強く頼み込みます。

P.10
ここで二兎のモノローグ。
「この50点くらいの日常でいいやと思う臆病な俺なのであった」
現時点での二兎の人生観が語られます。
直後に、廊下の角で女子とぶつかるという、王道の出会いが起こります。
ここで二兎が綺麗に受け身を取るところも伏線です。

ヒロインとの出会い

P.11
1コマ目で、ぶつかった相手であるヒロインの大牙奈央をしっかり見せます。
二兎は頬を赤らめ、心の中で「眼鏡美女!」。
P.4での情報がさっそく使われ、二兎が奈央に惹かれることに説得力を持たせています。
奈央の持つ進路希望調査には、彼女のフルネームと、「第1希望 プロMMA選手」との記述。
二兎とMMA(総合格闘技)との距離が縮まっていきます。

二兎の抱えるもの

P.11~13
ここで、二兎の情報がふたつ明かされます。
祖父との関係と、二兎の身体能力の理由です。
妙に身体能力が高いところは小さな謎だったのですが、ここで解決します。

P.14~18
二兎の家庭の事情と、祖父との過去を説明します。
二兎には負い目があり、祖父の介護に専念したい、という現在の目標が語られます。

P.18
下段のコマから通学時の電車のシーン。
前ページまでの回想が優也に説明していた内容と重なっており、二兎は優也に「格闘技ジムには一人で行ってくれ」と断ります。
しかしそれでは物語が始まりません。
何かしらイベントを起こす必要があり、さっそく起きます。
不良がまた絡んでくるのです。

近づく災難と、中盤の見せ場

P.19~20
不良にカツアゲされ、屈した二兎は財布を取り出そうとしますが……。
ヒロインの奈央が助けに入ります。

P.21
第1話の見せ場、奈央の後ろ回し蹴り。
川田先生の画力で迫力ある描写!

P.22
思わず不良をかばってしまった二兎。
蹴りを食らって気を失います……。
目を覚ますと、優也が通おうとしていた格闘技ジム。

二兎の情けなさを上塗り

P.23~33
ジムや奈央の情報が明かされ、優也が体験入会する流れで、二兎もつきあうことに。
二兎がつきあった理由は「奈央の笑顔が素敵だったから」。
奈央のキャラがじゅうぶんに魅力的なため、ここも不自然さはありません。
笑顔もかわいい。
二兎はMMAの体験を通し、二兎は「どれだけ自分が情けないか」を思い知らされます。
実際、パンチを上手に当てられず、奈央の顔面に当ててしまうなど、散々な結果。
奈央も「びっくりするほど当て勘が無い」と思うほど。
最後は強がった笑顔を見せてジムを出ていく二兎。
ここでシナリオ上、「二兎がタオルを忘れていく」という仕掛けが入ります。
たった1コマでさりげなく描いていることもポイント。
ここでタオルを忘れることで、奈央をジムの外に出せるのです。

分岐点となる災難と、主人公の決意

P.34~37
路上で再び不良に絡まれる二兎。
第1話で最大のピンチです。
奈央は駆けつけたものの、これまでの経緯から飛び込むことを躊躇します。
不良たちは、優也と奈央を傷つけることに加担するよう、二兎に要求します。
ここで、これまでの二兎の背景と、第1話で体験したことがフラッシュバックし、モノローグと重なります。
「痛いのは嫌だ…」
「大抵のことは譲ってきた」
「50点の日常を守るために…」

P.38
二兎の見せ場です。
モノローグと、二兎の決めセリフが重なります。
二兎自身が選択し、日常が非日常へ変わる、新しい世界の扉を開いた瞬間です。

P.39~44
二兎の見せ場が続きます。
爽快です。

P.45~48
第1話のエピローグ。
まだ二兎はジムに行く決意をしておらず、小さな変化だけを見せて第1話を終えます。

第1話ではまだまだ情けない二兎

前半では二兎の情けない部分を徹底して描きつつ、不良たちをしっかり悪役として描くことで、終盤のシーンに気持ちよさがあります。
ストーリーを無理なく進めつつ、コメディも含めながら二兎の情けなさを丁寧に描いてきたからこその爽快感です。

しかし、二兎は第1話ではあまり変化しません。
情けない高校生が勇気ある決断をしますが、二兎の生活自体は大きく変化せずに終わります。
それもそのはず、アスミカケルは第7話までがプロローグなのです。
二兎がMMAを始めることに十分な説得力を持たせるため、話数をかけてじっくりと描いています。

冒頭でも書いた通り、週刊少年ジャンプの作品で、ここまでスローペースのセットアップは珍しいと言えます。
1話1話を単独で面白く、かつ次回への引きを強く作れる、という自身がないと、この構成は難しい。

漫画力の高い、川田先生ならではの第1話です。

試し読み

こちらのサイトで第1〜3話が読めます。
ジャンププラスのサイトで「アスミカケル」を試し読みする

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