「ワールドトリガー」から学ぶ、キャラの作り方【三雲修 編】【シナリオ分析】

2019-04-06

週刊少年ジャンプで2016年から休載していた「ワールドトリガー」。ついに連載再開しました!
近未来SFアクションを軸に、多くの登場人物を巧みに操るストーリー。アニメやゲームにもなった人気作です。
再開のお知らせに歓喜したファンも多いはず!

登場人物の多さが特徴的ですが、それぞれのキャラにしっかり個性を与えており、集団バトルの描写はとくに素晴らしい!

今回は本作の主人公の一人「三雲 修」のキャラの作り方を、漫画版の第1話から学びます。

なぜユーマからじゃなくて、オサムからなのか。
……それは、僕がそうするべきだと思ってるからだ!

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本作は主人公が複数

公式設定は主人公4人

とりあえず第1話では、「三雲 修」と「空閑 遊真」の二人が主人公として登場。公式サイトの質問コーナーでは、作者の葦原先生が「主人公は4人」と回答しています。

でも実質はダブル主人公

とは言え、実質は修と遊真のダブル主人公で物語は進みます。漫画版の第1話で主に描かれるのは修と遊真ですし、キービジュアルなどでは二人だけのパターンもよく見ます。
連載再開の告知カットも修と遊真です。

さらに言えば一人だけのキービジュアルになると遊真の方が比率が多くなりますので、修より遊真の方が「主人公」っぽい扱いをされています。
コミックス第1巻のカバーも遊真。

アニメ公式サイトのキービジュアルだとこんな配置。

ですが今回は修のキャラの立て方を見ていきます!

第1話の構成

第1話は55P。大まかなシーンごとに分けます。

1〜9P、世界の説明

舞台は三門市という小規模都市。ある日、異世界から侵略者が攻めてきたが、ボーダーという組織が街を守り、異世界との侵略から防衛を続けて4年経ちました……というようなことをテキストで説明しています。

10〜26P、修と遊真の出会い

修の中学校に、遊真が転校してきます。遊真は不良たちと小競り合い。

27〜33P、不良との小競り合い再び

帰宅途中、遊真は不良たちに絡まれ、修はそれを止めようとします。

34〜55P、ネイバー襲撃

不良たちとケンカの最中に突如ネイバーが出現。修と遊真、不良たちが襲われます。

修のキャラの立て方・前半

では要素ごとに、修のキャラの描き方を見ていきましょう。

クラスの中で浮いている

10P。
周りは仲良く友人と話しているのに、修だけがぽつんと一人でいます。クラスの中に雑談できる友人がいない、またはそもそも周囲から浮いているのかな、という描写です。

正義感は強い

15P。
クラスの不良たちが弱いものいじめをしているところに介入して、いじめられっ子の方を助けます。

でも、バカにされる

助けた行為を不良たちから冷やかされるも、何も言い返しません……。

「ボーダー関係者」に反応

12P。
これから来る転校生がボーダー関係者かも、という噂に反応します。
シンプルに、修がボーダーに絡んでいることの伏線です。

遊真に助け舟を出す

17P。
転校してきた遊真は、教師から「左手の指輪を外せ」と言われます。遊真はこれを拒否し、指輪がダメなら学校をあきらめるとまで言います。
そこで修は「何か事情があるんじゃないでしょうか?」と教師に意見します。
この意見も、不良たちから冷やかされてしまいます。

改めて遊真との出会い

21P。
ここはあっさりと描かれるのですが、教師が「三雲くん、空閑くんのことお願いね」と言ったため、修が遊真の世話役に。二人は握手します。本当にあっさりとしているのは、まだ二人が他人同士だからです。
その直後、修のモノローグで「遊真がボーダー関係者かどうか」を気にしていることがわかります。

再び正義感を発揮するも、何もできない

23P。
不良たちが遊真をからかい、修はすかさず制止しようとします。

修「おいおまえらやめろ! こんなことして恥ずかしくないのか!」

しかしまったく効果はなく、逆にマンガ雑誌をぶつけられ、「おまえが恥ずかしいわ」とまで言われる始末。

遊真の性格に驚く

25P。やられたらやりかえす遊真。さらには、不良たちを笑顔で煽ります。

修「こいつ……意外と好戦的だ……!」

修は遊真のギャップに驚きます。この小競り合いは教師が介入して強制終了。

修と遊真の対比

27P。学校からの帰り道、修と遊真が並んで歩いています。
ここで、修と遊真の価値観がぶつかります。

修「おまえ、ああいう連中は相手にするなよ」
遊真「ほう? なんで?」
修「やり返したら事が大きくなるだろ。あれだけ恥かかせたらいまに仕返しされるぞ」
遊真「ふむ……じゃあどうすればよかったんだ?」
修「それはだから……口で注意するとか無視するとか……」
遊真「へえー! 日本だとそうなのか。いままで行ったどの国でも、やり返さなきゃやられっぱなしなのが当たり前だったけどなー」
修「……! それは……!」

修は自分が「やられっぱなし」であることを思い返し、それ以上反論できません。

読者の価値観は修に近い

もちろん考え方は人それぞれですが、一般人の考え方に近いのは修の言い分だと思います。やられたらやりかえす、という考え方では日本の学校生活ではトラブルにしかなりません。しかし遊真の意見に触れ、修は揺れます。自分は結局やられっぱなしであり、状況を変えられない事実に悩むわけです。

注目ポイント

ここでは読者を修に共感させています。読者は修の立場になり「遊真の異質さ」を体感するのです。

またまた正義感を発揮

28P。
不良たちが遊真に絡んできます。ここでも修は正義感を見せ、遊真を守ろうとするのですが……。

やっぱり弱い

ページを送ったら、見事に殴られています。修の殴られっぷりが少しギャグタッチで描かれているのは、リアルめに描くと重い印象になりすぎるためだと思われます。こういうところは葦原先生ならではのセンスですね。

修と遊真がぶつかる

ケンカではなく、ここでも修と遊真の価値観がぶつかります。

修「こいつら……よってたかって卑怯な……!」
遊真「いやー 数はケンカの基本でしょ。メガネくんなんでついて来たの。弱いのに」
修「……『弱いのに』は余計だ」

修はめげません。むしろプライドを見せて不良を説得しようとしますが、蹴りを入れられてしまいます。

修は言い返せない……

対話ではありませんが、さらに修と遊真の価値観がぶつかります。

不良「(遊真に)オトモダチがピンチだぞ。助けてやれよ、ほら」
遊真「助ける? おれが? なんで?」
さらに……
遊真「メガネくんが自分から首突っ込んできたんだから自分でなんとかしなきゃ」

修は言葉が出ません。

前半のまとめ

3回も同じパターンを繰り返しているので、修のキャラはとてもシンプルです。

描かれたのは2つの要素

正義感は強いけど、実力は弱い

この一点を、何度も見せています。しかし修は、遊真の価値観に触れることで、何も変えられない自分についての葛藤が生まれます。
そしてもうひとつ大切なことがあります。

ここまでの修は、負けっぱなし

不良たちを止められない。ケンカにも負ける。遊真にも何も言い返せない。ここまでの修はいいところ無しですが……これが最後に効いてくるわけです。

今のところそんなに魅力はない修……

正義感を振りかざすも、結局はやられてばかり。魅力あるキャラとは言いづらいところです。しかし三雲修はワールドトリガーの主人公! ここからやってくれるはずです。
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修のキャラの立て方・後半

このままだと、修は主人公になれません!
どうやって主人公の要素を手に入れるのでしょうか。

ネイバーの襲撃!

遊真が不良の足を折ったところで、突然ネイバーのトリオン兵「バムスター」が襲ってきます。
ざっくり説明すると、トリオン兵とはロボット兵器のようなものです。
トリオン兵は、足を痛めた不良を食おうと口にくわえてしまいます。

皆が逃げようとする中、修だけが立ち向かう

遊真は不良たちに構うことなく、逃げようと言います。修にとっては、自分を散々バカにしてきた相手が、目の前で死にそうになっています。ここで、修だけがトリオン兵に向かっていきます!
「逃げようぜ」と言う遊真と、またも修がぶつかる。
ここで第1話の見せ場がやってきます。

遊真「なんでおまえが助けに行くんだ!?」
修「……ぼくがそうするべきだと思ってるからだ!」

修はトリガーを起動して変身!
何やら剣のような武器でバムスターに一撃食らわせます。ここで遊真が説明セリフ。

遊真「あいつボーダーだったのか!」

修はボーダー隊員だったことが明かされます。

注目ポイント

修がボーダー隊員として変身する見せ場のシーン。しかしそれだけではありません。第1話の中で、初めて修が「勝つ」シーンなのです。
これまで遊真の価値観に対して何も言い返せなかったけれど、遊真に強く言い返しています。自分の信念を貫き通すことで、何も言えなかった自分を克服し、遊真にある意味「勝って」いるのです。

修の信念が、遊真を変える

遊真はこれまで「首を突っ込んだ修が悪い」「自分たちが助かればいい」という、シビアな考えでした。しかし、信念を貫く姿を見せられた遊真は心が動きます。バムスターに対して勝ち目の無い修を、遊真の意思で助けるのです。修の信念に対して、一目置いた遊真。これも修の勝利と言えます。

バムスター撃退のあと……

遊真は修に疑問を投げかけます。

遊真「おまえって変なヤツだな。トリガー使えるならあんな連中楽勝だろ」
修「トリガーの一般人への使用は禁止されてる。それに……それはぼくのやり方じゃない」

この修のセリフに、遊真は笑顔で応えます。遊真は、修という人物を認めたのです。

最後の3Pは次回への引き

最後に遊真の秘密が明かされます。次回への引きを作って、第1話は終わり。

主人公・三雲修の魅力

改めて、修のキャラの成り立ちをまとめてみましょう。

三雲修のキャラ要素

正義感は強いけど、実力は弱い

ボーダー隊員である

危険を顧みず、信念を貫く心の強さがある

前半から、2つの要素が増えました。
いわゆる正義のヒーローだと知ることで、暑苦しいくらいの正義感も読者は納得できてしまいます。さらには、危険の中、自分をバカにした相手でも助けに行く姿。そして、言われっぱなしだった遊真に言い放つセリフ。どちらもかっこいいですよね。
さらにまとめると……

普段は頼りないけど、いざとなるとかっこいい

こう書いてしまうとベタですが、柱になっているのはド定番のヒーロー像
だからこそ修は魅力ある主人公になれるのです
しかし、よくあるヒーロー像そのままでは個性が出ません。

三雲修という主人公の新しさ

ワールドトリガーを読んでいて「オサムってちょっと普通の主人公と違うなあ」と思う方も多いのではないでしょうか。それは、ちょっと珍しい要素を足してあるからです。

弱いヒーローとしてスタート

ここが、独自性、目新しさになります。もちろん同じような弱いヒーローは他の作品にもいますが、ここまで弱いヒーローとして物語が始まるのはかなり珍しいパターン。これができるのは、強い主人公である遊真とのダブル主人公だからです!

修の魅力は「応援したくなる」

この先、修は強くなろう、成長しようと努力していきます。物語の節目で「あの修が……よくぞここまで……!」と感動できるシーンが描かれていくのです。
読者は、修の成長を見守りたくなります。修が敵と戦うときには応援したくなるはずです。

この先の修が楽しみ!

読み進めていくうちに、修のさらなる魅力が描かれていきます! ぜひぜひワールドトリガーを実際に読んでみてください!

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画像出典

「ワールドトリガー」第1巻©葦原大介/集英社
ワールドトリガー.info
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