NHKニュースで紹介された日本語講師の女性が、ネットでの批判を目にして何を思ったのか?【インタビュー】

2018年10月22日(月)放送のNHK「おはよう日本」において、「主婦が教える『JAPANESE』」というニュースがありました。サブタイトルは「大人気 主婦の日本語レッスン 手軽さが魅力」。

オンラインの動画チャットを使い、リーズナブルな価格で日本語レッスンを提供する会社が近年増えているとのこと。そこで講師を務める女性と、その生徒さんにスポットを当てた内容でした。

放送後、ネットには様々な感想が書きこまれました。講師の女性は、それらを目にして複雑な思いを抱いたようで……。

テレビ取材を受けた結果、どういった感想を見て、どんな心境になってしまったでしょうか?
直接、ご本人にお話をうかがいました。

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インタビューに至った経緯

1.どんな放送だったのか


番組での内容はこちらからテキストで読めます。
主婦が教える『JAPANESE』|けさのクローズアップ|NHK おはよう日本
本記事を読む前に、リンク先をご覧になることをおすすめします。

おはよう日本の取材を受けたのは、ジャパトークという会社に登録し、オンラインレッスン日本語教室の講師として働く、馬上めぐみさん。
馬上さんと、日本で働くベトナム人の生徒さんとのレッスンの様子を中心に、馬上さん、生徒さんそれぞれのインタビューで構成されていました。

内容の一部を引用します。

日本で働く外国人が、ここ5年で1.8倍と急増する中、主婦が教える日本語教室が人気を集めている。生きた日本語が身につくという、その秘密に迫りました。
(中略)
講師を始めて1年。
馬上さんは、今までにない充実感を得られるようになりました。
家事や子どもの世話で終わっていた夜の時間が、自分の世界を広げる時間に変わったのです。
(中略)
ハイさんも日本に溶け込みたいと考えていますが、1日中パソコンと向き合うだけで、家に帰っても1人。
日本人と話す機会がほとんどないといいます。
1コマのレッスンが、日本での生活にハリを与えてくれます。
ド・ゴック・ハイさん
「この時間は1日の中で一番楽しい。教えてくれて、話してくれて感謝です。」

2.ネットの反応では批判が目立った

例えばこのような意見がありました。

・無資格で日本語講師を名乗っている
・1コマ25分で390円の価格設定
・雑談を日本語レッスンと呼べるのか
・出会い系チャットと変わらない

3.ご本人が批判を目にして、twitterで反応


馬上さんは普段からTwitterを使っており、そこで放送についての様々な感想を目にしました。
内容を見て、馬上さんはひどく落ち込んでしまったそうです。

馬上さんのつらさは必然だったのか

放送内容は、主婦の新しい働き方としてポジティブに紹介。
馬上さんも生徒さんも笑顔で、どちらも満足しているように思える内容でした。
テレビ取材と出演を承諾したことで、ご本人がつらい気持ちになるのは本意ではないはずです。

当事者の意見を知りたい

放送で伝えきれていないことがあるのではないか?
または、現実と違う形で伝わってしまったことがあるのでは?
批判を受けた上で、改めて伝えたいことは?

ご本人がTwitterで語る方法もありますが、字数制限でまとまった意見は述べづらいツールです。
そこで、ご本人に取材して、お気持ちを語っていただこうと思いました。
今回はTwitterを通して馬上さんに直接連絡を取り、メールでインタビューさせていただくことができました。

テレビ取材を受けて放送され、多くの感想を見た今。
何を感じていらっしゃるのか?

以下、馬上めぐみさんへのインタビューです。
内容はご本人の了承も得ております。また、当ブログと馬上さんは放送後にTwitterでやりとりしただけの関係であり、利害関係はありません。
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放送後に起きたことは?

—放送後の反響はどのようなものがありましたか?
ジャパトークには講師の応募がかなりあったと聞きました。生徒の登録も増えたようです。
私に関しては、実を言うと、レッスンに予約が殺到したなどということはなく、ほぼいつも通りリピートの生徒さんです。もちろん、数人は初めてのご予約もありましたが。

—うれしい感想はありましたか?
昨年まで5年間パートで働いていたのですが、その職場の人たちからは、「頑張ってるね!」「活躍してるね!」と言ってもらえました。辞めた理由の一つが、この仕事をしたかったからなので、やりたかった仕事をしている姿を見せられて良かったと思いました。ネット上では、たまに肯定的な意見もありました。同じジャパトークの先生達からは概ね共感、激励の言葉をいただけました。

—逆に、つらい感想はありましたか?
たくさんあります。はじめに目にしたのは、この主婦はバカっぽい とか、半額シールやカレーの話をしてドヤ顔をしているとか、生徒に申し訳ないと思わないのかとか、そういった感想でした。怖くなり、それ以上は見ることができなくなりました。あとからツイッターで、出会い系の要素が強いとの書き込みも見ました。それには断固反論しましたが、そのように映ったのならかなりショックです。ちなみに私の生徒さんの半数は女性です。

オンライン日本語教室の仕事について

賃金について

—馬上さんは1コマ25分390円の料金設定で、手取りはそれより下がりますよね。最低賃金より低い報酬についてはどうお考えでしょうか?
そこまで気にしていません。やりたかったことに近い仕事。でも資格はないし、養成講座に通うお金も時間もない。子供のこと、学校のこともきちんとやりたい……今の私にとっては一番ありがたい仕事です。自分の能力に自信があればポイントを上げるのは自由ですが、私はカジュアル講師として登録しています。教えられることも限られていますし、それを承知で生徒さんたちも、この料金だから試してみよう。とか、続けてみようと思えるのではないかと思います。ですからこの賃金は妥当だと考えます。

名称について

—「日本語会話オンラインレッスン」というサービス名は妥当に思いますか?
妥当だと思います。私は資格のないカジュアル講師ですが、資格や経験のある先生方も多く在籍しています。また、生徒さんの知りたいことを教えることもレッスンの一つだと思います。

このお仕事の良いところ

—このお仕事をやっていてうれしいときや、やりがいは?
冗談を言って笑いあえたとき、「あ、コミュニケーションがとれてるな」って実感します。そのときはすごく嬉しいです。今回のことについても、生徒さんからたくさん励まされて、いつのまにこんなに信頼関係ができていたのだろう、と思いました。普通に生活してたら出会えなかった人たちと出会えて、くだらない話から、悩み相談までしあえるというのは特別なことだと感じます。

このお仕事で働くことを検討している方へ

—このお仕事に向いている人はどんな方だと思いますか?
資格云々を考えずに言うと、やはり話すのが好きな人、話を聞くのも好きな人でしょうか。最近生徒さんに言われたのですが、「25分間、いろんな外国人と話を続けられることは、能力と言えます。megumiさんは、フリートークが途切れないから、それは良いレッスンです。」私はこの言葉にものすごく救われました。
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「おはよう日本」での放送内容について

—放送の内容に補足したいことはありますか?
オンラインレッスンでは、自由に先生を選べるので、授業がわかりにくい、つまらないならばリピートはありません。そんなにやさしい世界ではないのです。意外とシビアです。

—放送ではうまく伝わってなかった、と思うところは?
放送では、敬語のレッスンをしていましたが、実際はほとんどしたことがありません。会話の中で、聞かれたら教えますけど、そもそも私の教えられることのリストに敬語は入っていません。実力もないのに有資格者と同じレッスンをしようとは思っていません。そのかわり、質問には必ず誠意をもって答えています。レッスン中にうまく答えられなかったことや、伝えられなかったことは必ず、あとからスカイプにまとめた内容を送るとか、次のレッスンまで猶予をもらって、間に合うように勉強します。気軽さばかりが目立っていたように感じましたが、時間外にやることもたくさんあるのです。
生徒の多くはすでに日本語学校で学んだ人、N1、N2(日本語能力試験1級、2級)を取っている人がほとんどですから、目的はやはり会話することです。アウトプットしたいということです。よく言われるのは普通のスピードで話してということ。ネイティブの会話のスピードに慣れたいそうです。それをなかなか実践、経験する場所がないから、そういう人たちにとって、オンライン教室で気兼ねなくおしゃべりすることは意味のあることです。
放送では、今までまったく言語に関心もない主婦のように映ったと思いますが、実際は中国語に興味があり、大学では中国言語文化を専攻していましたので、がっつり中国語を勉強してきました。ただ、卒業後は中国語を使わない仕事に就き、そのまま結婚、出産、育児でほとんど話せなくなってしまいました。育児が落ち着いたので2年ほど前から生徒さんと同じようにオンラインで中国語を勉強しています。ですから、外国語を学ぶ大変さは理解できます。私も、文法ではなく会話のレッスンを選んでいます。とにかく、中国人と話して耳をならしたいし、自分の中国語が伝わるか試したいという感じ。私の生徒さんも、同じような気持ちなのかなと……。

放送を見てくれた方へのメッセージ

—この記事を通じて、新たに伝えたいことはありますか?
私の言動で日本語教育関係者の方々を不快な気持ちにさせてしまったのであれば、申し訳ございません。私が先生と呼ばれることに疑問を持つ方もいらっしゃると思いますが、自分自身「私は先生だぞ!」とは思っていません。生徒さんから友達のように思ってもらえた方が嬉しいです。 日本語教師の方々と私では生徒さんにとっての役割が違うので、私はこのまま、今の需要に応えていきたいと考えています。悔しいこともありましたが、そのおかげで、なかなか進まなかった日本語教育能力検定の勉強をもっと頑張ろう、日本語ボランティアにも参加してみよう、等という気持ちになれました。ありがとうございました。

(インタビューは以上です)

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謝辞

馬上さん、今回はご協力ありがとうございました。
この場を借りて御礼申し上げます。